信じて 委ねる

不妊治療や夫婦関係、仕事、人生について綴ります

自分にLINEする

「できたこと日記をつけてみるのはどうですか」

 

思ってもいない方向から思ってもいない言葉が飛んできて、返答につまる。

 

この言葉の発信者は、某資格予備校のチューター。

私はとある資格試験の受験をするためにこの予備校の講座を受講しており、都度都度何かあるとこのチューターに相談をしている。

 

流れに任せていたら、受験生という身分であるにも関わらず不妊治療にも並行して取り組んでいるというなんとも両立しなさそうな環境に、気づいたら身を置いていた。

 

今回初めて体外受精の移植をしてからというものの、どうにもソワソワして気分が落ち着かず、頭もフワフワ気持ちも定まらない状態であれよあれよとボンヤリ過ごしていたらあっという間に判定日の2週間後になってしまった。結果は前回のブログに書いた通りだが、一区切りついたところで「あ、2週間全く勉強していない」と気づいた次第である。

 

いや、正確に言うと勉強していないことに当然気づいてはいたのだが、「妊娠してるかもしれないし無理はいけないよね」と半ば妊婦になった気分に浸り自分を甘やかし現実から目を背けた2週間でもあった。そうしている間にも週3コマの授業は淡々と進み、試験日は着実に近づいている。

 

だが、毎日勉強を継続する面倒くささから逃げるいい口実を失ってしまったこのタイミング。本当にこのまま逃げてしまっていいのか。改めて自分に問うた。

 

そこで出てきたのは、「やっぱりその仕事がしたい」という純粋な気持ちだった。その資格は合格率3%の難関モノであり、正直受験を決めた動機は胸を張って威張れるようなものではない。「すごいと言われたい」「親や周りを見返したい」「社会的に地位の高い仕事をしたい」という気持ちが強かったのが本音。

 

そんな動機だったため、膨大な勉強量に圧倒され情熱の炎を燃やし続けることが難しく、なんとか講義についていく状態だった。

そこに不妊治療という要素が入ってきた暁には、堂々とサボれる大義名分としてちょうど良くハマってしまったのだ。

 

このままでは全て中途半端になってしまい逃げ癖がついてしまう。本能で自分からのSOSを感じていた中で出てきたのが前述の「その仕事がやりたい」だった。詳細は避けるが、それをやるためにこれまでの自分の人生があったのではないかと思うくらいの衝撃が走った出来事が起こったのだ。陰性判定を受けたクリニックを後にした直後に入ったドトールで。もう腹をくくってやるしかない、それ以外に私の進むべき道はない、と腹落ちしてしまったのだ。

 

そんな昨日から一夜明けた今日。

 

2週間の間一度もテキストを開いていないという状況は受験生にとって非常に恐ろしいことであり、今までやってきた知識は日増しに抜けていく一方。「あなたならできますよ、大丈夫」という言葉をかけてもらいたい一心で、予備校のチューターに電話で相談をした。

 

そこで出てきたのが冒頭の言葉である。もはや受験勉強を乗り切るだけのものではなく人生訓である。

 

「あなたはできないことばかりにフォーカスをして自分を追い込む癖がある。自分が思っている以上に達成感を味わっていいんですよ。」

 

100%おっしゃる通りで、開いた口がふさがらなかった。その言葉がとても温かく、胸の奥までじんわりと響いた。

 

そうか、達成感を味わっていいんだ。。

 

闇雲に勉強を再開する前に、自分の棚卸しをすることにした。お気に入りのカフェに行きお気に入りの手帳を開く。今まで移植後の体調変化を毎日記していた手帳。新しいページに、「できたこと」と書き込む。小学生時代から今に至るまでにできたことを書き記していく。思えば、積み上げてきた過去の経験値を振り返ったことはなかった。写真を見るようにふと思い出すことはあっても、もう過ぎたことであり「頑張ったな」「成長したな」と達成感を感じたことがなかった。

よく、男性の過去の恋愛経験は上書きされていくが女性は削除し新しいページに書き込んでいく、という例え話があるがまさにそんな感じ。過ぎたことは一瞬にして通り過ぎ、帳消しにしている感覚。次!次!と常に何かに追われており「もっと頑張らなければ…もっと…!」と日々繰り返す。

 

そんな生き方は疲れるし、いつまでも自分を肯定できないままだということに気づいた。もしや「できたこと日記」の効能は果てしないのではないか…?

 

次に「資格を取りたい理由」を羅列した。その仕事に就いて困った人を助けているビジョンが浮かんだ。もちろん高尚ではない理由も書いた。だってこれは誰に見せるでもない自分だけの本心を綴る手帳なのだから。

 

続いて「勉強が苦しい理由」とその「解決方法」。

解決方法はいくつも出てきたが、

『未消化の承認欲求は自分で満たしてあげる』

と書かれている。そうか、「頑張ったね」「えらいね」「すごいじゃん」と、自分で自分に言ってあげればいいのか。

 

幼少期、劣悪な家庭環境で育った影響をまだ引きずっていた。「お前は平凡で無能なつまらない人間だ」と言われて育った。ここに至るまでに散々向き合ってきたつもりだったが、どうやらまだまだ根は深そうだ。

 

と、その時LINEの通知。開くと友人からだったが、ペンギンが自己肯定感を上げてくれるような言葉を言ってくれるスタンプが届いた。そこでふと思いついた。

 

「自分にこのペンギンのスタンプを送りたい」

 

調べると自分だけのグループを作成すれば自分だけにメッセージやスタンプを送ることのできる機能があるではないか。

 

「だいじょうぶ!!」

「生きててえらい…!」

「だいすき〜」

 

あぁ…これはずっと言われたかった言葉だ。求めても求めても決して与えられなかった言葉。ずっとこの枯渇した気持ちを抱えながら生きていくのだと思っていたが、自分で自分に言えば良かったのだ。

 

グループ名は『できたこと日記』にした。ここに毎日できたことを書き込んでいこう。その時の素直な気持ちを綴ろう。そして「よく頑張ったね」「えらいよ」というスタンプを送り続けよう。自分で自分を守ってあげよう。

 

カフェから出た足取りは軽かった。カフェの前の電気屋で勉強用のデスクライトを買った。

 

きっと、大丈夫。私は大丈夫。

 

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